狩尾の原野に姿を現す巨大な扇・狩尾の扇切り~扇切保存会の活躍~

毎年8月の盆前になると、阿蘇市狩尾の北外輪山の原野にある、通称「扇平(おうぎびら)」の斜面に幅約70m、縦約50mの巨大な扇が姿を現します。

この巨大な扇づくりがどうして始まったのか、はっきりとしたことは分かっていませんが、地元の言い伝えによると、明治時代末期に狩尾の一里山隣保班が始めたといわれています。
 扇の形には、田畑の害虫を風で払う、牛馬の安全を願う、疫病退散、五穀豊穣といった意味があるそうで、農薬がない時代は害虫が発生した際、扇で追い払ったと伝えられていることに由来するのではないかと考えられています。
 戦時中から昭和40年代にかけて、牛馬の飼料や海苔ミスに使う竹切りのため一時中断しましたが、昭和52年に狩尾3区内の一里山隣保班が復活させました。その様子はNHKでも全国放送されました。
 その後、若者の減少により平成6年から狩尾3区全体で扇切りを行うようになり、さらに平成9年より狩尾3区有志によって「扇切(おうぎきり)保存会」を立ち上げ、扇切りを継承しています。
 現在の扇切保存会は20代から70代の男性25名が所属しており、毎年8月の第1日曜日に扇切りの作業を行います。

 今年の作業は令和2年8月2日(日)に行われました。午前5時半、狩尾3区にあるJA倉庫に保存会のメンバーが集まりました。その後、「扇平」の麓まで車で移動し、次に刈り払い機などの機材を担ぎおよそ30分かけて標高約750mある扇まで牧野を登っていきます。

 この日は見渡す限りの雲海が広がっていました。

 「扇平」の頂上で一度集合し、保存会会長から作業時の注意などの説明があった後、作業開始となります。

 作業中に扇の形を確認したり、大きさを測ったりということは行いません。昨年刈り取った草の僅かな跡と、長年の経験と勘を頼りに各人が刈り取っていきます。また、作業担当場所をその都度話し合ったりということもありません。長年作業を行っているうちにそれぞれの担当場所がおおよそ決まったのだそうです。

 扇の場所はかなりの急こう配。比較的なだらかな部分でも傾斜角度が30度近くあります。30度というと、草に足をとられたり、風にあおられたりするとすぐに身体のバランスを崩して倒れてしまう角度。熊本地震では1m以上陥没した箇所もあり、ケガをしないよう、刈り払い機での作業には細心の注意が求められます。

 また、特に勾配が急なのが扇のかなめ(根本)の部分。ここは、保存会メンバーの中でも限られた人しか作業をすることが許されないそうです。

 刈払い機を用いた作業の後、今度は2mを越える長さの竹竿を用いた、短く刈り上げた草の向きを整える作業を行います。刈り取った草をまんべんなく広げることで、ムラのない美しい扇の色に仕上げることができます。


作業を開始しておよそ1時間、7時半には作業が一段落しました。いつもなら、その後牧野に登らず待機していたメンバーが麓から扇の様子を確認し、携帯電話を使って微調整を指示します。今年は雲海が発生していたため、麓からの確認ができず、雲海が消えるまで待機してからの作業となりました。

 幻想的な雲海の景色のなか、麓メンバーからの確認の連絡を待ちます。

 8時過ぎ、作業は終了し勾配がなだらかな場所まで移動し、各自持参したお弁当で朝食をとった後下山。今年の作業は完了となりました。


 例年ならその後、反省会を兼ねた食事会を行うのですが、今年はコロナウィルス感染拡大防止のため残念ながら中止となってしまいました。

 扇切り保存会会長の鎌倉昭幸さんによると、
「扇切りは一時中断した時期があったものの、明治から狩尾に伝わる歴史ある行事。田畑の害虫除けや牛馬の安全、五穀豊穣や健康を祈って続けてきたものです。熊本地震の年も中止にはしなかった。今年はコロナ収束を願う意も込めて実施を決めています。作業は屋外で密にもならないし、地域の伝統を守りたいと思った。今年も例年同様出来栄え良く扇切りができたと思っています。」
「刈り取った草の色が変わる3日後くらいからが扇の見頃。冬に雪が積もった景色も見事です。今年はJR豊肥本線の全線開通や国道57号線、二重峠トンネルも開通する。列車の車窓からも扇はよく見えるので、観光の目玉の一つになっていけばいいと思う。扇の姿を見て阿蘇が元気であることを伝えたい。」と話されました。

鎌倉昭幸会長

 コロナに負けることなく地域の伝統がいつまでも続いていくことを願っています。

 

■狩尾の扇がよく見える場所「旧尾ヶ石東部小学校」

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