コルナゴ部長こと中尾公一さんレポート「2022年野焼きレポート」

阿蘇の春の祭典「野焼き」も無事終了し、新緑の季節が待ち遠しい季節となりました。
今年は順延もなく、予定通りに野焼きを開催することが出来ました。
今回は、阿蘇の野焼きの様子をお届けいたします。

奈良時代の720年に完成したと伝わる日本の最古の歴史書「日本書紀」には、阿蘇に遠くまで見渡せるほど広い草原があったことが書かれている。何と1302年も前にだ。927年に完成した「延喜式」という法典には、草原と人の関わりを示す記録が残されており、阿蘇山の噴火や降灰によって森林化が妨げられたこと以上に、採草、放牧、野焼きなど人の営みによって草原は維持されてきた。このカルデラ上部に広がる広大な草原と、陥没カルデラ底部の集落や耕地を結ぶ垂直的な土地利用の積み重ねが阿蘇地域の文化的景観として形作られてきた。

2月27日の阿蘇山麓・米塚周辺と、3月6日の北外輪山一帯で行われた2ヶ所の野焼きを、千年以上前から家や畑があった陥没カルデラの阿蘇谷から、人が歩んだであろう道を自転車で辿りながら当時と同じ景観を目の当たりにしてきた。いずれもまん延防止条例下の期間なので阿蘇満喫モニターライドの開催はできずガイドメンバーで取材に行こうと思っていたところ、モニターライドによく参加されている方から野焼き見学の希望があったため、阿蘇市から通達されている禁止事項・注意事項を厳守することを前提にそれぞれ別のグループの方を案内した。今回はそのレポートと、阿蘇ハイランドゴルフコース付近の斜面から米塚近くに広がる狩尾南牧野を野焼きの翌日に調査に行ったので合わせてレポートする。

野焼きは枯野になった草原を燃やすので雨天なら即中止と判断できるが、当日天気が良くても草が濡れて燃えにくい状態だったり、強風で燃え過ぎて危険と判断される場合は、当日の朝になって延期ということもあり、スタンバイ中の野焼き関係者全員が無言か、「仕方ない」の一言で次回のスケジュールを立てなければならないことも過去にあった。このように条件が揃わないと野焼きはできないので例年順延続きで3月中旬や下旬に行われることが多かったが、今年は2か所とも最初の予定日に開催されるという珍しい年になり草原が新緑になるのも早いことだろう。

2月27日の阿蘇山麓・米塚周辺の野焼き見学には、男性1名女性3名のグループの方の参加希望があり私と下城さんと井上夫妻の4名で案内した。スタート前にルールに従って見学すること、危険と判断した場合は引き返すこと、煤や灰が目に入るので注意することを確認した。道の駅阿蘇から坊中線を上って杉山を抜けるとすぐに火の手が見えてきた。晴天続きだったので今年は火入れも早いようだった。

右に大きく曲がるところから舗装がきれいになっており、昨年暮れから2月にかけて「自転車の走行区間の整備」という舗装補修工事のお陰でとても走りやすくなっていた。このルートは最も阿蘇らしい景観が楽しめることからパノラマラインと呼ばれ、阿蘇サイクリングの看板コースなので自転車乗りには嬉しい。また車も多いため上り坂が滑らかだとふら付くことが防げて安全対策としても効果があると思う。

案内したみなさんは初めて野焼きを間近から見てその迫力に感激されていた。いたるところから煙が上がり、煤が舞い熱風が吹く嵐のような光景はこれまで何度も見てきたが、今年も「まさかという世界」だった。
炎は一瞬で燃え広がるので風下を通るときは要注意だ。

牧野の方が炎が道路に迫る要所に待機されている。危険と感じたら立ち退くよう指示されるので従うこと。

炎が激しいところは熱風が台風のように吹き荒れ、煤が容赦なく目、鼻、口、耳に入ってくる。他のところはともかく、一度目に入ったら涙で取り除くことはできない。まばたきの度に痛く目薬で洗い流すしかない。

炎がおさまって見物しようと道路の柵に自転車を立てかける場合要注意、熱で焼けているのでフレームにダメージを与えてしまう。このあと赤水線のトイレのところまで行って来た道を引き返した。すでに焼けた直後の光景がまた素晴らしい眺めである。

中世の頃、阿蘇山麓の牧野に火を入れて狩りを行っていた「下野狩り」は、農耕のために鳥獣の害を除くためと同時に尚武の気風を高める目的があったと言われ、シカ・イノシシ・ウサギ・クマ・オオカミなどが獲物になっていたと伝えられている。そんな昔と変わらない景色を見るためには、歩いてくるには遠すぎて、車は駐車するところがなく自転車が最良の足だと思う。

ただし、坊中線・赤水線に通行制限はないが、禁止事項・注意事項を守って見学に来るにしても、いつ火入れがあるのか、どこに行ってどこで見ればいいのか、迫る炎の恐怖など案内する人がいないと不安だらけで、せっかく来ても右往左往しただけで終わってしまったという人もいる。なので阿蘇山麓・米塚周辺の野焼きについては、煙や炎による熱さが残る野焼きの翌日でも時間を飛び越えた世界に遭遇することができるのでノーリスクである野焼きの翌日以降をお勧めするのが今回の感想である。

3月6日の北外輪山一帯で行われた野焼きは私と井上夫妻の3人でミルクロードを案内した。見学希望者はサイクリングクラブのメンバー14名と多かったが、サイクリングのマナーは見習うほど良く、グループ走行にも慣れた方だったので、車の通行の妨げにならないよう配慮されながら走られていた。

ミルクロードは通行できる時間帯が制限されているので大観峰で時間調整して規制が解かれた後に二重の峠まで走りながら見学した。北山展望所から先は野焼きされる方の昼食の時間帯になったので、火入れがなく道端には車や見学者もいなかったので心配していた下りも安心して走ることができた。

二重の峠から阿蘇谷に下り外輪山の麓の道を走って1kmの厳しい坂を上る「そらふねの桟橋」と、ロードバイクでも楽しめる内牧の「MTBパーク」に立ち寄り、あぴか運動公園から少しグラベルを通って本塚に行った。

野焼きが終わっていた本塚も牧野であり、ここに立ち入るには牧野ガイドの同伴と牧野保全料500円を必要とする。そこで農業資源である牧野を観光資源とする取り組みについて説明したら、厳しい坂は苦手だからと立ち入らずに麓で待たれた方もその趣旨に賛同されて500円を支払われちょっと感動した。

本塚は多分30%を超える激坂があり、e-MTB以外で頂上まで上りきった人を見たのは、鹿児島のスポーツサイクル専門店「KOGU」の松永店長だけであり、グラベルロードのシッティングで簡単そうに上られてびっくりだった。

ここは道の駅阿蘇からも近く自転車乗りの反応もいいので阿蘇ライドの締めくくりにしたいと思っている。厳しい坂だが上れる所まででも挑戦して、あとは歩きだけでも微笑む達成感は単純素朴でありながらもいつまでもみなさんの記憶に残ることだろう。

最後にこの日サイクリングしながら野焼きの歴史や、牧野組合の方やボランティアの方が毎回怪我人も出る危険な作業に従事されていることや、資金面でバックアップされる企業などの話しを聞かれて、「このライドは野焼きをされている方の目の前で笑いや歓声を上げながら走るものではなく、感謝の気持ちを込めて挨拶しながら走るものだと分かりました」と一人の方が言われて案内して本当に良かったと思った。

北外輪山の野焼きについては、大観峰からだと安全で寒さも凌げてトイレや売店もあるので快適に見学することができる。その後のサイクリングは今回のようにミルクロードの通行規制解除後に走れば楽しむことができるので「阿蘇の野焼きライド」はこちらをお勧めする。

阿蘇山麓周辺の野焼きの翌日に、真っ黒に焼けた狩尾南牧野へ下城さんと清田さんと私の3人で行ってきた。「狩尾」の地名の通り、狩尾峠があるラピュタ付近の牧野組合が管理されている飛び地みたいなところであり、箱石峠の上の町古閑牧野や、かぶと岩展望所近くの西小園牧野のように自転車やトレッキングで立ち入れように話しをしている段階でまだ入ることはできないが今回は許可をもらって調査してきた。ここは道の駅阿蘇から近いため自転車を運ぶことなく自走で行けるので、阿蘇谷をコースとする清田さんのキッチンライドのコースなど魅力ある牧野になる。

野焼きの後に入るのは初めてだったが一面が焦土の世界でまさに異星にいるようだった。走ると灰が舞い上がりタイヤの跡には地に張った草が見えた。
来た道を振り返ると阿蘇谷と北外輪山が見える。位置的には阿蘇谷越の狩尾峠、ラピュタの向かい側斜面になる。

景色を閉ざしてた背丈を超える草がないためとても眺めの良い牧野という印象。

MTBでもe-MTBでも存分に楽しめるフィールドだった。

米塚近くにいくつか溶岩トンネルがあると聞いていたがそのひとつかも知れにない穴を見つけた。しかし、入口が崩れかけていてこの中へ入ることはできない。

牧野道は米塚の案内板まで繋がっていたがチェーンで閉じられて赤水線からの出入りはできない。

引き返すと外輪山の先に金峰山、その先には雲仙普賢岳まで眺めることができた。

通ってきた牧野道を引き返しながら違う道を探してみた。

結局、グーグルマップで見た道に似たようなものは、鉄条網や鉄柵の無かった時代の牧野の境界を示すために土を盛られた土塁だった。なので結局、牧野の中を走る体験になった

草の根元の凹凸や陥没を乗り越えながらのダウンヒルは実に面白かった。ここの野焼きの後のMTBライドはおすすめであり、町古閑牧野のスノーライドに匹敵するフィールドだった。

以下動画でその激しさと楽しさをどうぞ。

 

野焼きを見ながらの阿蘇山麓・北外輪山を巡るサイクリングと、野焼き後の誰もいない静まり返った本塚と狩尾南牧野の異星にいるような体験は、数回にわたる大規模火山活動により、東西約18km、南北約24kmに及ぶ世界屈指のカルデラの自然を肌で感じるものだった。
「延喜式」に書かれている“二重の峠付近に牧場あり”との記述により、阿蘇での牧畜は平安時代から続いていると云われている。焦土となった阿蘇の台地から、草原の恵みを活かす千年に渡る人々の知恵こそ、世界に誇るべき自然と人間の共生の産物であると今年の野焼きを走ってそう感じた。

 

 

 

 

 

 

 

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